『数学C』の新設により、文系生徒への負担が激増


 さて、高等学校の学習指導要領は、2012年度から現課程になっています。2003年度から始まった課程が旧課程で、2022年度から始まる課程が新課程です。
 旧課程と新課程にあって、現課程にない数学の科目って何かわかりますか?

 答えは、『数学C』です。AとBはあるのに、Cがないってなにか違和感を覚えますよね。どうしてなくなったと思いますか?

 管理人が推測するに、「京都大学の暴走を抑止するため」です。京都大学は、2006年の入試から、数学Cを文系学部の試験科目に加えていました。これは一昔前の『代数・幾何』『基礎解析』課程の入試科目に戻したことを意味します。これは高等学校における旧課程の範囲なのですが、当時文系の生徒たちは、数学Cをやっている余裕なんかなかったのです。

 どのくらい大変だったのか、説明しましょう。


 もちろん管理人は、『1元1次不等式』『2次方程式の解の公式』『三角形の重心や円に内接する四角形など』の代数分野や幾何分野の基本となる知識は中学校で学びました。
 しかし、旧課程ではこれらがすべて高校の内容になってしまったのです。ちなみに現課程では『2次方程式の解の公式』は中学校の内容に戻っているのですが、そんなものは高校数学においては、ほとんど役に立つものではありません。2次方程式というのは、むしろ『判別式』『解と係数の関係』『2次関数のグラフとx軸との位置の関係⇒解の存在範囲』というところで重要になってくるのです。
 もちろん旧課程でも、2次方程式を平方の形に変形して(平方完成して)解を求めるというやり方は学習しています。しかしそれは、x2の係数が1で、かつxの係数が偶数であるときなど、ごく簡単な形にとどめられています。

3x2-5x+2=3(x-5/6)2-1/12

 このくらいの式変形を、一瞬でできるように中学校の段階で訓練を積んでおけば、何も問題はありませんでした。しかしそれをやらなかった……。

 高校1年生では、旧旧課程では中学校で扱っていた、『高校数学の基礎』を学習しなければならなくなったため、旧旧課程では高校1年で扱っていた以下の単元が、高校2年の内容になってしまいました。

・恒等式と方程式と不等式の証明
・数列

 当時の『数学U・数学B』はとんでもない量の範囲をこなすことになっていました。高校1年で数学Uの内容に踏み込んでも、かなりペースアップしないと高校2年までに全範囲を終わらせられないとか。
 そんなことで、文系の生徒は、高校2年で数学U、高校3年で数学Bを学習するスタイルが確立したわけです。今でも多くの高校ではそのようなスタイルになっているかと存じます。

 そうなりますと、京都大学のやっていることは無謀ですね。そこで文部科学省という悪の組織が誕生します。数学Cを廃止すれば、京都大学は数学Cを文系学部の試験科目に加えることができなくなると考えたのです。

 やることは早く、数学V(3単位)と数学C(2単位)を『レッツ・ラ・まぜまぜ』して、数学V(5単位)にしてしまうという、なんとも単純な、幼稚園児でも考えそうなことを……。

 これで京都大学は、数学Cを文系学部の試験科目に加えることをあきらめ、おとなしく数学TAUBのみとなったのでした。


 ところが今度は、理系の生徒が大変なことになっているという変なニュースが飛び交いました。数学Vは学習する内容が多すぎて、授業についていけない生徒が急増したというのです。そこで2022年度から始まる新課程では、数学Vと数学Cを分けることになりそうなのです。
 しかしこれには大きな問題があります。現課程の数学Vから新課程の数学Cに移行する単元は、『2次曲線』『複素数平面』ですが、これらは理系の大学で数学を学ぶ際に基本となる事項です。しかも旧課程では、もちろん旧旧課程でも、理系の生徒は数学Vも数学Cも学習していました。ということは、数学Vを数学Vと数学Cに分けたところで、理系の生徒はどうせ両方やるのですから、現課程と新課程とで理系の生徒にかかる負担は変わらないといってよいでしょう。むしろ……


 京都大学が数学Cを文系学部の試験科目に加える分だけ、文系の生徒にかかる負担は増える、ということです!


 京都大学が加えると発表してから反対運動を起こしては遅すぎるのです。京都大学に教育の質を求めるというのなら、学生にも質を求めるという京都大学の主張が通ってしまうからです。数学Cの設立を、なんとしてでも阻止しなければなりません。

 理系の生徒が、「数学Vの標準単位数は5で、やることが多すぎるから授業についていけなくなった」と主張し、あたかも数学Vの範囲の多さと難しさを訴えているようですが、これは本当なのでしょうか……?


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