『数学T』『数学A』の問題点


 さて、ここから5回にわたって、現課程になって理系の生徒にかかる負担がどれくらい増えたのか? ということを解説していきます。本当に数学Vはやることが多すぎて授業についていけなくなったのでしょうか?

 旧課程ではあった、『数学C』がなくなりました。そこで扱っていた内容は、ほかの科目に移行したのです。

・行列⇒高校数学からは消滅。大学の『線形代数』で初めて学習する。
・2次曲線⇒『数学V』に移行。
・確率分布⇒『条件付き確率』『期待値』は『数学A』に移行。それ以外は『数学B』に移行。
・統計処理⇒『数学B』に移行。

 また、『数学B』では、『数値計算とコンピュータ』『統計とコンピュータ』があったのですが、それらが廃止され、『資料の分析(代表値、分散、標準偏差、相関係数など)』は数学T『データの分析』に、『ユークリッドの互除法』については数学A『整数の性質』に移行しました。

 これらを踏まえたうえで、高校1年で学習する『高校数学の基礎』の問題点を取り上げていきたいと思います。

 数学Tでは、『数と式』『2次関数』『図形と計量』『データの分析』を学習します。旧課程では数学Aであった、『集合と論証』は、『数と式』の中に盛り込まれます。しかしながら、『集合』について高校1年で学習するのは、遅すぎるのではないか? と思います。小学生・中学生が数学的センスを鍛えるのに適した単元であるということです。
 そして、『1元1次不等式』も『数と式』で扱う内容となっています。ここで指摘しておきたいのが、旧旧課程では中学校で扱っていたが、旧課程では高校1年で学習する内容となった、『2次方程式の解の公式』が、現課程では中学の内容に戻った、ということです。2次方程式の解法としては、

・因数分解による解法
・平方完成による解法
・解の公式による解法

 この3つが挙げられます。因数分解できないものについて、x2の係数が1で、かつxの係数が偶数であるときには、平方完成による解法を用い、そうでない場合は解の公式、などとわけのわからない教育内容となっています。どんな2次方程式であっても、即座に平方完成するくらいの計算力を、中学3年生の段階で身につけなければならないのです。

 ax2+bx+c=0という2次方程式は、aは0以外のすべての数をとりえます。すなわち、無理数であってもいいのです。たとえば、√3x2-3x+1という式を見たときに、√3{x-3/(2√3)}2+1-(3√3/4)と変形できますか?

 2次方程式の解の公式に、b2-4acというのがあるのですが、bが√3の場合(いわば平方根)でもスラスラと計算できますか?

 計算力を鍛えるという格好の鍛錬時期である中学生の学習を無駄にしていませんか?

 そもそも2次方程式の解の公式など、高校数学においてはほとんど役に立つものではありません。『判別式』『解と係数の関係』『2次関数のグラフとの関連性・解の配置問題』のほうが重要です。理解できないなら、公式を暗記すればよいなどと、暗記主義になっていませんか?

 そもそも、『2次方程式の解の公式』を中学校の内容に戻しておきながら、一番問題視されている、本来中学校で習得して然るべき『1元1次不等式』を高校内容に据え置くというのは、間違っているのです。逆のほうがよかったです。


 そして、因数分解については、中学3年生で初めて習う単元ですが、因数分解は整式の除法の繰り返しであるという根本的な事柄に一切触れていません。管理人が中学生のとき、「乗法公式の反対が因数分解」などとわけのわからないことを教えられました。『整式の除法・因数定理』については、現在では高校2年で扱う内容となっているのでしょうか。

 f(x)=x2-8x+15としたときに、f(3)=0となるから、f(x)は(x-3)を因数にもつ。f(x)÷(x-3)=(x-5)となるから、f(x)=(x-3)(x-5)と積の形に直すことができ、これはf(x)を因数分解したことになる。

 中学3年生ですぐ上の段落を理解できたら、拍手を送りたいです。でも本来の因数分解は、こうあるべきです。整式の除法や因数定理をやらずに因数分解をやる、これが今の日本の数学教育の欠陥といってもいいです。


 数学Aの『整数の性質』というのは、現課程から初めて加わりました。以前の大学入試でも、整数問題が出題されることが頻繁にあるからだそうです。では、多くの大学が『空間図形の方程式』『行列と1次変換』『微分方程式』を入試問題に頻繁に出すようになったら、それらの内容を高校数学に盛り込むのか? とツッコミたくなります。
 そもそも、『場合の数と確率』『図形の性質』も含め、数学Aで学ぶ単元は、小学校や中学校で扱ってもいいような内容ばかりです。先ほども述べましたが、これらは小学生や中学生が、数学的センスを鍛えるために適した単元であるのです。一刻も早く、若く、頭の柔らかいうちに学習を始めないといけません。難関私立高校の入試問題にて、確率や整数問題、空間図形の問題のウエイトが大きいのはご存知ですか? 難関大学の入試問題にて、文系数学でも理系数学でも鬼門と呼ばれるのが、確率と整数問題であるのはご存知ですか?

 とどめには、数学Tにも数学Aにも、『課題学習』というのが設けられています。内容は、数学TAの内容を発展させ、生徒の興味関心をそそるような課題を生徒たちに考えさせて解かせる、というものです。そして一番やってはいけないこと、次の項でも述べますが、このような学習機会を与えるために、旧課程では高校1年で扱っていた、『3乗の乗法公式・因数分解』『二項定理』が、現課程では数学Uの内容になっています。旧課程であれだけ重いといわれた数学Uの内容が、さらに重くなってしまったのです。
 そんなわけで多くの高校では、数学TAの授業が終わり次第、高校1年の段階で数学Uの内容に入るのです。『課題学習』などやっている高校は皆無です。文部科学省という悪の組織の言いなりにはならないのです。


 おまけ。先日、千葉県立千葉高等学校の文化祭に行ってきました。文化祭のパンフレットにて、「教師の放った格言(名台詞)を教えて!」という『裏中間試験コーナー』があったのです。数学科のとある教師は、こんなことを言っています。

 これやらないと面白くないですからね〜、これやりましょう♪

 そのあとです。カッコ書きして、高1なのに高校2年の範囲をやらされる、と書かれています。整式の展開に関して、二項定理のパスカルの三角形を高校1年で学習させられるとかいう話です。これはいいのですが、問題は旧課程まではこの内容を高校1年で学習していたということです。少し上のほうでも述べましたが、多くの高校では数学Uのあまりの重さに、高校1年である程度数学Uの内容に踏み込もうと必死です。それをあたかも、自分たちの高校だけは特別に、高校1年なのに数学Uの範囲をやらされると生徒たちがいうあたり……

 千葉県立千葉高等学校の生徒は、現課程における高校数学の欠陥をまったく理解できていないといわざるをえません。こんな人たちが難関大学を受験するなど、おこがましいにもほどがあります。


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