小学校時代の学習量で、中学・高校で吸収できる内容が決まる


 さて、これまでにわたって、旧課程から現課程への主に理系科目の変遷についての問題点について指摘しました。また、新課程では数学Vが数学Vと数学Cに分けられてしまうという、最悪のことこの上ない課程になるということも説明しました。この数学Cというのが復活するというニュースが出たのは、2016年の5月ごろです。ということは、2016年3月、または2015年3月に高校を卒業した理系の生徒たちが、
数学Vはやること多すぎ! 授業についていけない!
と悲鳴をあげたということになります。今回はこの年について考えてみることにします。

 高等学校の現課程は2012年4月からスタートしました。この年、そして翌年に高校に入学した人たちが、数学Vのあまりの範囲の広さに嘆いていたということになります。
 ではこの人たちが小学校に入学したのは? 高校入学から9年前、2003年4月ないし2004年4月です。この時の小学校の算数ってどんなものだったのでしょうか?

 分数が初めて登場したのは、なんと小学4年生です。5年生では仮分数、同分母の分数同士の加減。そして倍数や約数を6年生で学習したがために、約分や通分、ひいては異分母の分数同士の加減も6年生で学習するということになってしまったのです!

 小数の初出も4年生です。そして加減乗除は小数第1位までとなりました。つまり、8%の計算はできないけれど、10%の計算はできるということです。消費税10%というのが見え見えです。円周率を3.14ではなく3で計算するというのも、旧課程での大きな特徴でした。

 自然数の乗除については、もっと扱いがひどいです。2桁×2桁の筆算は3年生でやりますが、3桁×3桁はおろか、3桁×2桁というのも、小学校教育から削除されてしまいました。割る数が2桁の筆算は4年生でやりますが、割る数が3桁の筆算は小学校でやりません。


 そして彼らは、2009年ないし2010年4月に、中学校に入学しました。2006年10月末に文部科学省という悪の組織の無能ぶりを露呈する、教育界史上最悪の事件が起こったことから、2007年3月の国会で、総理が「ゆとり教育を早急に見直す必要がある」と公言しました。この時は、「学習指導要領は必要最小限教えるものであり、必要に応じてこれを超えて教えることができる」という注意書きが明記されたあたりです。

 しかしこのときの彼らは、小学校の算数でどのくらいの勉強量だったのでしょう? 想像してみてください。管理人が小学生の時は3桁×2桁の筆算を1日10問こなしていた課程(旧旧課程)だったとしましょう。旧課程の小学生は、2桁×2桁の筆算を1日2問こなしていた課程だったのです。前述の通り、3桁×2桁は小学校で学習しないのです。しかし、ここで問題にしたいのは、問題の量なのです。かなり少なくなっていますよね。これが旧課程の大きな特徴です。今までの課程では当たり前のように学習していた内容を削られ、かつ残った内容も量を少なく、薄くされた結果、計算力の低下というのが起こったのです。

 旧課程の小学生に3桁×2桁の筆算のテストをさせたところ、それは学校で習っていないからできない、と言います。しかし管理人としては、理由は別にあると思います。3桁×2桁の筆算ができないのは、「学校で習っていないから」ではなく、「2桁×2桁の筆算が身に染みていないから」なのです。2桁×2桁の筆算がしっかりと身に染みていれば、3桁×2桁はたまた3桁×3桁の筆算も、考え方は同じですので、苦も無く解けるはずです。

 中学校では方程式や関数、とりわけ反比例というのを初めて学習しますが、分数の扱いに慣れていないのですから、まず反比例でつまずくことになるのは目に見えていますし、方程式を解くのも一苦労することになります。旧旧課程では不等式もやったし、2次方程式の解の公式もやったのに……。


 そしてこの人たちが高校2年生になって、整式の除法(除法とは割り算のことです)を学習することになります。たとえば、x2÷(x-2)を計算し、答え(商)と余りを求めるという問題が出たとします。『受験研究舎 リュケイオン』のホームページから購入できる、『看護系ならコレ! 〜数と式編〜』50ページ目に『Lesson 6 整式の除法』があるのですが、その最初の1文がこうです。

 整式の除法は、整数と同じようにできます。

 こう書いて、こんな図(というか筆算のやり方)を載せたあと……

 割り算をする手順は解答を見てもらえば分かると思います。

 こう書かれているのです。旧旧課程においては、それで大丈夫でしょう。しかし、旧課程、厳密には小学校時代をどっぷり旧課程で過ごし、割り算の筆算の計算力が圧倒的に不足している生徒にとっては、何のことを言っているかまったくわからないのです。この場合、x2の中にxはx個入っているから、一番上にまずxと書く。xとx-2を掛け合わせると、x2-2xになるから、割られる数の下にその式を書いて、上の式から下の式を引くと2xが残って……と逐次書く必要があったのです。
 しかし、この本の著者の立場(これでも学習塾の講師です)だったら……

 たかが計算じゃないか! こんなものにこれほどまでに説明を割く必要があるのか!?

 ……となるかもしれません。結論から言いましょう。割く必要があったのです。小学校時代、割り算の筆算の計算練習をあまり積んでこなかった。中学校では割り算の筆算なんてほとんど使いませんよね。計算力が低下している生徒たちをターゲットとするなら、今まで以上に丁寧に扱う必要があったのです。


 話を本題に戻し、結論から申し上げますと、タイトルにもある通り、小学校時代の学習量で、中学・高校で吸収できる内容が決まるのです。小学校時代に計算力を鍛える機会を十分に与えてもらえなかった生徒たちは、中学・高校でもそれなりの量しか吸収できない、と言っているのです。さらに言うなら、数学Vのあまりの多さに、吸収しきれないと嘆いている人たちというのは、実は小学校時代をどっぷり旧課程にはめられ、整数や分数の計算力を鍛える機会を十分に与えてもらえなかった人たちということです。
 そして管理人は今まで、高等学校における現課程の問題点を指摘してきましたが、2017年や2018年に議論するということが根本的に間違っているのです。そもそも2011年4月に小学校に入学した人たちこそが純粋な現課程生であって、その人たちが高等学校に入学するのは2020年4月ということになります。そして卒業するのが2023年3月であり、そこでやっと高等学校の現課程について評価することができるのですが、その時にはもう新課程になってしまっています。小学校・中学校・高等学校で、1年ないし2年のスパンがあるとはいえ、一律に学習指導要領を定めるということに、そもそも限界があると言わざるをえないのです。
 もっとも、管理人としても現課程の問題点を指摘してきましたが、純粋な現課程生ならば、それまでの小学校・中学校の学習量によって、少なくとも2015年における高校3年生の抱えている問題点は解消されると期待しています。数学Vは、むしろ新たに学習することが意外に少なく、物足りなさを感じるくらいなのではないかと思うことさえあります。数学Vを数学Vと数学Cに分けるというのは、根本的に間違っているのです。

 もう一度言います。

 京都大学が数学Cを文系学部の試験科目に加えると発表したら、どう責任を取るのでしょうか?


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