『科学と人間生活』の問題点


『科学と人間生活』というのは、現課程から登場したもので、旧課程における、『理科総合A』『理科総合B』をレッツ・ラ・まぜまぜした、新しい科目です。おもに文系の生徒が履修するのが望ましいとされています。『物理基礎』『化学基礎』『生物基礎』『地学基礎』の中から3科目を必履修科目として文部科学省が定めているのですが、『科学と人間生活』を履修する場合、基礎の付く科目は1科目で充分だからです。そしてこの科目は、2022年度から始まる新課程においても開講され、理科の必履修科目の組み合わせは、現課程と新課程とで変わりありません。

 しかしこの科目には、大いに問題があります。1つ目は、「高校生が身につけるべき理科の内容としては、少なすぎる」ということです。どういった内容なのか、それを以下に挙げます。

(1)科学技術の発展
(2)人間生活の中の科学
 ア 光や熱の科学
  (ア)光の性質とその利用
  (イ)熱の性質とその利用
 イ 物質の科学
  (ア)材料とその再利用
  (イ)衣料と食品
 ウ 生命の科学
  (ア)生物と光
  (イ)微生物とその利用
 エ 宇宙や地球の科学
  (ア)身近な天体と太陽系における地球
  (イ)身近な自然景観と自然災害
(3)これからの科学と人間生活

 この教育課程では、(2)のア〜エにおいて、それぞれ(ア)(イ)から1つずつ選択して学習するというものです。したがって、光はやったけれど、熱はやっていないとか、人間の目の見え方はやったけれど、微生物をやっていないとか、それで高校の理科教育を身につけたといえるでしょうか? 管理人としては、これらの内容はすべてマスターして、それで高校理科(の最小限)をマスターしたといえるだろう、と考えます。
 そしてそれらをすべてマスターするには、4単位時間くらい学習する必要があるでしょう。あとは基礎の付く科目1科目で充分です。現在では文系の生徒でも理科教育について学ばせようと、基礎の付く科目3科目を履修させている有様です。

 2つ目の問題点は、「センター試験の試験科目にない」ということです。これは1つ目の問題点と被るところもあるでしょう。高校生が身につけるべき理科の内容として、もう少し内容を増やせば、センター試験の科目になるのでは? と思えるほどです。
 そしてこればセンター試験における問題点なのですが、「基礎の付く科目は2科目受験することになっている」ことも、この科目の履修状況が芳しくない一因となっています。たとえば、『物理基礎』『化学基礎』を履修して、『科学と人間生活』は生物や地学の分野だけをすべて履修させる、すなわち上の内容において、(2)のウとエのみをやるのだが、(ア)(イ)の両方をやる、ということですね。しかし、基礎の付く科目を2科目履修させたなら、残る1科目も基礎の付く科目にしてしまおうということ。こうやって、『生物基礎』を履修させる高校が増えてしまうのですから、『地学基礎・地学』を履修しない生徒が増えてしまうのです。


 ちなみに、電山中央高等学校では、理数コースではこの単元を学習しません。1年で理数物理、2年で理数化学、3年で理数生物を学習するからです。工業コースでは、1年で理数物理、2年で理数化学を学習し、3年で科学と人間生活の生物と地学分野を学習します。ただし建築コースは、自然災害と防災について早期に学習する必要があるため、(2)エ(イ)は2年で学習するとか。ほかのコースでは、1年の1学期と2学期に科学と人間生活の全範囲を学習してしまいます。週6コマ使ってです。これで4単位。1年3学期以降はあと2年間のどこかで基礎の付く科目を1科目とればいいのですが、基礎の付かない科目まで踏み込んでとる必要があるのです。高校の教師は口をそろえて、『物理基礎・物理』をとったほうがいいと言います。

 こうしてみると、文系理系、コース問わず、物理を必死に、全面的に推しているのがみてとれます。なぜでしょう? それはおいおい解説することになります。


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