『化学基礎』『化学』の問題点


 現課程になり、数学・物理以上に目を覆いたくなるのがこの科目です。東京都立新宿高等学校の第1学年で学習する『化学基礎』のシラバスを初めてみたときは、しばらく呆然としてしまいました。
 東京都立新宿高等学校では、第1学年で『化学基礎』を3単位学習するのですが、第1章の『化学と人間生活』で『化学と人間生活のかかわり』の代表的な金属やプラスチック、それの再利用、洗剤や食品添加物、その有効性と危険性についてが、何度シラバスを読み返しても書かれていません。

 この高校で学習する『化学基礎』の内容は以下の通りなのですが、このうち、太字で大きく書かれた内容は、現課程においては『化学』の内容となっています。

・物質の構成(純物質と混合物)、物質の三態
・原子の構造と化学結合
・結晶格子
・物質の変化、物質量と化学反応式
・酸と塩基
・酸化と還元
・電池と電気分解
・硫黄、窒素、リン、ナトリウムとその化合物


 こうなりますと、残っている単元は、『沸点上昇と凝固点降下』『化学平衡』『反応速度』『金属とその化合物』『有機化学全般』くらいでしょうか。『気体の状態方程式や熱エネルギー』については、『物理』で徹底的に学習することを前提に、『化学』ではやらない、という選択肢もあるにはあるのですが、ではその高校の理系の生徒は、本当に全員物理をやっているのか? と突っ込みたくなります。

 また、『化学と人間生活』という単元は、入試であまり問われることのない内容であります。おまけに、『化学』という単元で、無機化学、有機化学、高分子化学、とやるのですが、そこで改めて『無機物質と人間生活』『有機化合物と人間生活』『高分子化合物と人間生活』というのをやるのです。さらには、もし『科学と人間生活』という科目を履修させ、化学分野(『材料とその再利用』『衣料と食品』)を徹底して学習させる場合、『化学基礎・化学』では、人間生活とのかかわりについて触れなくてもいいのではないか? とすら思えてしまいます。

 というわけで、今では東京都立新宿高等学校に限らず、非常に多くの高校で『化学と人間生活』の一部を飛ばす『化学基礎』の授業を展開しているのです。そして、その余った時間を『化学』の内容に踏み込むために使うのですが、その分量はどのくらいでしょうか。


 旧課程の『化学T・化学U』と現課程の『化学基礎・化学』でやることはあまり変わりません。といいたいところですが、実際には劇的に変化しています。『化学U』から『化学基礎』に移った単元は、『化学結合』『物質の三態』くらいで、大部分は専門科目である、『化学』のままです。逆に旧課程では『化学T』で扱っていた、『無機化学』『有機化学』は、専門科目の『化学』に移行しています。おまけに旧課程では『化学T』で初めて登場した、『イオン』が、現課程では中学で扱う内容となっています。

『化学基礎』で扱う内容は、旧課程の『化学T』と比べて、劇的に軽くなってしまったのです!

 そして『化学』では、旧課程の『化学T』から移行してきた内容で、膨大なものになってしまいました。おまけに、『天然有機化合物』『合成高分子化合物』は旧課程ではどちらかの選択でしたが、現課程では両方やることになります。物理の項でも述べましたが、これらもセンター試験の範囲になりえます。

 管理人は千葉県立千葉高等学校で、高校3年の11月までに『天然有機化合物』を終え、1月に『合成高分子化合物』をやりました。これらは当時センター試験の科目にはなかったのですが……

 現課程ではお話にならない!

 ……ということです。高校3年の11月までに『合成高分子化合物』までを終わりにしないといけません。高校3年の4月から『化学』の教科書内容を始める場合、週5コマこなさないと11月までに『化学』の教科書内容が終わらない、というのは、物理と同様です。千葉県立千葉高等学校は、今でも『化学』は週4コマです。高校3年の11月までに教科書内容を終えるとは到底思えません。

 文部科学省よ、東京都立新宿高等学校の悲鳴を聞け!

 千葉県立千葉高等学校よ、悠長に実験なんてさせてるんじゃない!



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