『物理基礎』『物理』の問題点


 高校の物理教育について、旧課程では『物理T』『物理U』の区分けでした。物理Tでは、旧旧課程まででは中学校で扱っていた、電気回路やフレミングの法則などの電磁気の補遺をしてから、波動から始められており、本来の姿である、力学⇒熱力学⇒波動と電磁気⇒原子物理という配列が崩れ、理解を不十分なものにする教育カリキュラムでした。悪いカリキュラムでしたが、それでも物理T、物理Uともに3単位となっており、本当はいけないのですが物理Tの授業で力学と熱力学をやり、物理Uで残りをやる、というようなことを無理なくできる、という高校もあったかと思います。
 しかし、現課程になって物理教育は崩壊しました。旧課程からの主な変更点は以下の通りです。

・物理Uから『物質の三態』が物理基礎に移動したが、この程度にとどまった。
・逆に物理Tからは『斜面運動』『ボイル・シャルルの法則』『ドップラー効果(というか波動のほとんど)』『静電誘導』が物理に移動した。
・物理Uでは『熱力学』『原子物理』がどちらかの選択だったが、物理では両方やることになった。

 現課程の高校理科教育の欠陥を一言でまとめると、これまでの物理Tから、ごく簡単なものを物理基礎として縮めあげてしまったため、旧課程までで学習していた、高校物理の大切な事柄のすべてを物理という専門科目で学ぶようになってしまったことです。

入試物理=物理

といっても過言ではありません。

 さらに、高校の理科教育は、学習指導要領の改訂を迎えるたびに、下級学年で学習する内容を少なく、上級学年で学習する内容を多く、としています。

旧旧課程 物理TB:4単位 物理U:2単位
旧課程 物理T:3単位 物理U:3単位
現課程 物理基礎:2単位 物理:4単位

 物理Uもしくは物理は、高校3年で学習するという高校が多いと思います。ものすごい量を消化しないといけません。大丈夫なのか心配です。ちなみにこの変遷は、物理に限らず、化学や生物、地学についても同様なのです。

 さて、この4単位というのは、高校生ならわかるかもしれませんが、週4コマやるということです。しかしこれは正しいのでしょうか? 正確には、週4コマの授業を35週間受けて4単位となります。ということは、4×35で、140コマの授業が必要になるということです。
 大学入試センター試験は、一部に選択問題があるとはいえ、物理全範囲から出題されることは確かです。ということは、遅くとも高校3年の2学期までに、物理の教科書内容をすべて終わりにするくらいでないと、センター試験に間に合いません。高校3年では1学期と2学期で授業を終わりにするということは、28週間くらいしか教科書内容の授業をできないということです。となりますと、140÷28で、週5コマこなさないといけないということです。

 管理人が千葉県立千葉高等学校の生徒だったとき、高校3年の2学期までに電磁気をすべて終わらせるのが物理での授業の限界でした。3学期すなわち1月に原子物理をやるのですが、まずセンター試験までは物理TBの原子物理分野をやり、それ以降は物理Uの原子物理分野をやりました。とてもお話にならないスピードですね。
 もっとも千葉県立千葉高等学校は、2年で『物理TA(2単位)』、3年で『物理TB(4単位)』という組み合わせだったので、高校3年の理系はとんでもない量をこなさなければなりませんでした。文部科学省という悪の組織は、旧旧課程においてはなるべく理科の負担を上級学年にかけないようにするカリキュラムにしていたのに、もったいない話です。物理TAとカリキュラムに書かれていても、実際には物理TBの教科書を使う、というのはこのからくりだったのです。上級学年に過剰な負担をかけるカリキュラムを組んでいる千葉県立千葉高等学校を見ていると、マジで教職員を殺したくなります。

※本当は、高校3年の夏休みを迎えるくらいまでに、物理や化学の教科書内容を終えるくらいでないとまずいのです。難関大学現役合格を達成するためには、その後の実戦問題の演習量がモノをいうのですから。


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